写真のことば

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戦後すぐの昭和25年版『ベビーブック』

ベビーブックは
子育てアルバムの完成形です

文:野崎泉

  古本市にてレトロな表紙に魅かれて手にとった、昭和25年発行のデッドストック品らしき『ベビーブック』。それは、子供の名前・性別・体重にはじまり、この世に生まれてから3歳頃までの成長の記録を、折々に撮った写真と共に完成させていく育児日記とアルバムの中間のような本だった。「お食い初め式」などの節目のほかに、ちっちゃな「手型」や「足型」、「好きだった歌」や「当時の社会情勢」なんて項目もあり。その後の探索で、ベビーブックは昔ほど一般的でなくなったものの、書店の赤ちゃんコーナーや子供のおもちゃ専門店などで今でもどうやら手に入ることが判明。

  ベビーブックの歴史は意外と古く、『写真百科事典』によると欧米では粉ミルクなどのメーカーや、フィルム会社などによる広告入りのノベルティとして量産され、第一次世界大戦以前から、だいたい1950年くらいまでのあいだに普及したそう。日本でも戦前からすでにあったようで、私が最初に手に入れた前述の『ベビーブック』にも冒頭のあいさつに、「戦争の推移と共に発行が困難になっていたこの本を、ふたたび世に送り出せることを心から嬉しく思う」的な、監修者のメッセージが添えられていた。何十年先に「残していく」ことを前提としているので、函入り&革張りのしっかりとしたつくりのものが多く、戦後のモノが少ない時代にこんなベビーブックを贈られた若いカップルはさぞ嬉しかっただろうなぁ、と想像がふくらむ。


高度成長期の昭和47 年に実業之日本社から発行された『ベビーブック』。
イラストは中原淳一編集の『ジュニアそれいゆ』の目次カットなどで知られる画家・鈴木悦郎氏によるもの。

  とあるアンティークショップで、1900年頃の英国製ベビーブック(使用済のもの)を見たこともある。海外のベビーブックは、赤ちゃんの目や髪の色を書き込むスペースがあるのもおもしろい。空欄も多かったけれど、芝生にちょこんと座り、気難しい顔で絵本を広げる白いワンピースを着た女の子のモノクロ写真が貼ってあり、〈目の色〉ダークブルー、〈乳歯の状態〉完全にはえたetc. 2歳当時のデータが書き込まれていた。好き嫌いは多かったようで、〈味覚〉very particular(好みがうるさい)……とあり、さぞお母さんを困らせていたのかな、と思わず微笑んでしまう書き込みも。

  それにしても、1900年初頭に2歳だったこの子はもちろん、ため息をついていたお母さんももうとっくにこの世界にはいない。それなのに、このベビーブックだけが残っていて、なんの偶然か縁もゆかりもないはずの私がこうやって目にしている……と、文章にするとなんてことない話のようなのだけれど、少しくせのある生々しい筆跡や、古びた印画紙を目の前にしたときの存在感は圧倒的で、「もの」として残しておくことの強さを感じずにはいられなかった。このリアリティは、同じものをパソコンの画面で見ていても得られなかったものだと思う。

  私の大好きな写真家、ベルナール・フォコンは「写真は時の海原に浮かぶ小さな停泊所だ」といったけれど、どこかの国の、名もない誰かが誰かを愛し、慈しんだ時間がこんなふうに残っていくこともあるんだな、と不思議な感慨に打たれた。

  今、携帯カメラを筆頭に写真を撮ることはずいぶん身近になったけれど、そのぶん刹那的な楽しみになってしまった一面も。ベビーブックづくりは手間も時間もかかるけれど、便利とか効率という視点からは見えないものの存在を教えてくれるような気がする。


アルバムページと共に「当時の社会情勢」や、生後まもない頃に住んでいた家の間取り&近所の様子を書き込むスペースがあったり、赤ちゃんが大人になった後に楽しめそうなページがたくさん。


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