写真のことば

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まほちゃん家のアルバム

文:藤本智士
写真:船寄剛

「子を思う親の愛」という凡庸な言葉では伝えきれないほどに、ずっと深く、ぐっと切実に愛を感じる写真集『まほちゃん』。しまおまほさんのお父さんであり、写真家の島尾伸三氏によるあの写真集が発売されたのは、2004年のことでした。言わば、自分の子供の頃のアルバムが世間に公表されるという、その出来事を当時25歳だった、しまおさんはどう感じていたのでしょう? まさにあの『まほちゃん』の舞台、島尾家が昔暮らしていた洋館でお話をうかがいました。


藤本  写真集『まほちゃん』が出版された時ってどんな気持ちだったんですか?

しまお  最初は嫌でしたね(笑)。仕事もしてたし。

藤本  やっぱり反対でした?

しまお  いや、でも反対はできなかったんですよね。あまり親に歯向かえなくて(笑)。心の中では「どうかな〜」って思ってたんですけど。周りもなんか変な「あ〜、お父さんが娘の写真集出しちゃうのね〜」みたいな感じになったらすごい嫌だなあと思ってて。でも、完成した本を見て、よかったなあと思いました。というか、途中、セレクトされた写真を見て、だんだん心が動いていった。「あ〜、こういうのだったらまあいいかなあ」と思って。全然父親の写真を信じてなかったんですね(笑)。悪かったなあと思って(笑)。

藤本  今、雑誌『カメラ日和』で連載されている”しまおまほのアルバム拝見!”は、どういう経緯で始まったんですか?

しまお  元々編集者の方が父の写真集を好きだったりして「やってみて欲しい」ということで。

藤本  実際にやってみて、どうですか?

しまお  そうですねえ。やっぱり人の家のアルバムは面白いですね。すごい個人的なものだから、内輪ノリって言ったら変ですけど、もう完全に世界が出来上がってるから入り込めない空気もあったりして、そこが何か面白いですよねえ。

藤本  その家オリジナルですもんね。

しまお  もう全然わかんないって感じじゃないですか。前後の物語もいろいろあるだろうし。しかも作品のつもりで撮ってるわけではないから、すごくプライベートな感じが見ていて申し訳なくなるような、でもちょっと覗いてるような気分で、すごい不思議だなって。

藤本  アルバムを見てしまったことでの気持ちの変化ってきっとありますよね?

しまお  その人のことがすごい好きになりますよね。やっぱりいろんなことあるんだろうなあって思って(笑)。今までは接してる部分しか知らないから、愛おしくなるというか。

藤本  あの連載では、もともとは知り合いじゃなかった人もいるわけですか?

しまお  ラーメンズの片桐さんとかは、知り合いだけど、そんなに会ったことがない感じでしたねえ。

藤本  それって、距離が縮まりません?

しまお  うん、一気に。奥さんとか子どもさんとかも写ってるし。

藤本  あ、じゃあ、その人が子どもの時のアルバムだけじゃなくて、今現在のアルバムも見たりされるんですね。

しまお  そう。だから梅佳代ちゃんとかは、作品になってるから「あ〜知ってる知ってる」ってなりますけど。だからもし、うちの写真とか見た人もこういう距離感なのかなあとか思います。

藤本  確かに。見覚えある感じですよ。

しまお  ねえ。そっちの方が不思議ですけど(笑)。篠原ともえちゃんのアルバムも見せてもらったんですけど、彼女とかはイメージがすごい強いから、プライベートの写真を見ると、何ていうか、ますます厚みを感じるというか(笑)。「そうか、こっちの部分もあるよなあ」って。急にプライベートな感じになるんですよねえ。またそれって、撮ってる人に向けての表情だったり、その時の気持ちとかも写ってると思うから、今対面している私に対してのスイッチじゃないので、そこがすごいドキッとしますねえ。

藤本  なるほど〜。でもそうやって、一枚の写真から写ってる被写体じゃなく、撮影者の存在を感じるって、実はなかなか気付かない部分だと思うんです。それはやっぱり、ずっとお父さんやお母さんの写真に触れつづけてきたからですかね?

しまお  いや、でもそんなに私も深く考えたことなくて、こういうのも家にあったけど(古いポラロイド写真を指して)、何かおもちゃの一つみたいな。ボタンびっと押して、ジーって出てきて、しかも自分が出てきて面白い! って、ただのカードみたいな感じで。しかも写真って、別の人が同じ構図で同じ時間に撮ったら同じ写真が撮れるんじゃないかとか、最初そう思ってたんですよ、10代くらいの頃は。だから写真というものに対しての見方がよくわからなかった。親が写真家やってるけど、現実にあるものしか撮れないからつまらないんじゃないかとか思ってて。絵とかは無限にできるけど、写真はもうこの世界以上のものはないからそれが面白くないんじゃないかと思っていたんですけど、歳を重ねるごとに写真をたくさん見るようになって、その人にしか見えてない世界が撮れてるっていうのも分かって。気持ちとかも何となく表れてるような気もするし。そういうのって父が写真集を出してくれたときに改めてちゃんと分かったのかもしれないですねえ。それまでは、こういうのも他の家の記念写真と全然変わりないから外に出すものじゃないと思ってましたから。見てくれた人が皆「自分の子どもの頃を思い出す」とか言ってくれたから、何か共有できるものというのが分かって。そうすると人の家のアルバムの見方も変わった。

藤本  そうか。じゃあそういう意味では、『まほちゃん』はすごく大きいんですね。

しまお  そうですねえ。アートになったんじゃなく、やっぱり家族写真のままなんだけど、皆と共有できる部分があるというのが分かったのでよかった。

藤本  自分でアルバムは作らないんですか?

しまお  今、というよりは10年くらい前大学時代に。フエルアルバムがすごい好きな時があって。友だちと撮った写真をどんどん貼っていって。

藤本  すごい勢いですね(笑)。

しまお  きちんと貼るとリズム感が一定で面白くないなと思って。雑に貼ってる方が、その時の空気感とか思い出すんですよね。中学生の時に写ルンですを学校に持って行って、学校の授業中とか休み時間に撮るのを流行らせたんです。5個くらい買って、毎日のように撮ってて。普段学校の写真って運動会とかそういう時のしか見たことないから、授業中とか教室の中の写真ってすごいみんな珍しがって「いつもの風景なのに写真になってる!」とか言って喜んでて。

藤本  そうですよね。ぼくは中学や高校の頃の写真がまったく残ってないんです。そういう人って多いんですよ。

しまお  そっか。絶対紙になって残ってる方が楽しいですよねえ。

藤本  こんな風に気持ちのままに貼っていくだけでいいんだから、残しておこう!って思いますね。

しまお  この時は、うちの近所にコンビニ兼酒屋があって、そこがDPEもやってたのでそこに出して。老夫婦がやってたんですけど、出して出来上がりまで結構遅かったんですよ。1週間くらい。その時間が楽しみで。

藤本  うんうん。その幸福な時間、最近は感じられないですよねえ。それにしても、全部貼るんですね(笑)。

しまお  そう。これとこれだったら、こっちだけでいいか? とか、そんなのも全部貼っちゃう。捨てない。

藤本  それって、やっぱり、島尾家のDNAなんじゃないですか。

しまお  捨てられないっていうね(笑)。でもやっぱりちゃんと残してないといけないですね。どうしても今が一番大きくなっちゃうから。

藤本  そうそう、そうなんですよね。

しまお  今を大事にしすぎてるというか。それはそうなんだけど。

藤本  アルバムの大切さを伝えようと思っても、ほんと難しいのは、そこなんです。寝かせるほどいいという。

しまお  昨日貼ったっていうよりも、何年も経って見るのがいいですもんね。あんまりその時は残すことって考えてないから。でもやっぱり残ってるってことはすごいことですよね。

島尾家が暮らしていたその洋館の一室は、今は倉庫として使われていました。両親が集めた数々のチャイナ・グッズのほか、大人のまほちゃんがすっぽり入ってしまうんじゃないかという大きな旅行カバン、「MAHO1991(小6)」などと書かれた沢山のゆうパックの箱など、部屋いっぱいに溢れる様々なモノたち。そして、本棚の奥からしまおさんが引っ張り出してくれたポラロイドフィルムの箱からは、島尾家の古い家族写真がたくさん出てきました。余白に日付やコメントが走り書きされたポラロイド写真とその箱を眺めながら、「これもアルバムだなあ」と感じたぼくは、いま改めて、あの部屋そのものが、まさにアルバムだったと気付いて、ハッとしています。雑然としていようがなんだろうが、「やっぱり残ってるってことはすごいことですよね」と言い切るまほちゃんだからこその、あのアルバムは最高の手本かもしれません。

しまおまほ

コラムニスト。
1978 年東京生まれ。
多摩美術大学卒業。数多くの雑誌で漫画やエッセイを執筆。著書に『まほちゃんの家』(WAVE 出版)など。父、島尾伸三、母、潮田登久子ともに写真家。現在『カメラ日和』にて「しまおまほのアルバム拝見!」を連載中。


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