キーワードは“時間”だった
古の昔から現在に至るまで、人はこの花を見て物思わずにはいられない。誰もを惹きつけ魅了する花、桜。昨年末、冬のさなかに発表された『Cherryblossoms』は、そんな桜の持つ不思議な魔力さえもとらえようと、184ページというボリュームで美しき桜の姿をふんだんに収めた写真集だ。写真家・大森克己さんが7年の歳月を費やし追い求めた「桜」とは?
大森:「意識して撮り始めたのはおよそ7年前だけれども、写真を始めてからずっと気になる存在ではあったんです。単純に『きれいだな、こういうの好きだな』って思う、それだけの気持ちから始まってはいるんですけど、写真ってその気持ちこそが何より大事ですから。「桜」には、いつか撮りたい、いつか撮ることになるだろうという予感めいたものがありましたね」
「しかし実際撮り出してから、桜の持つ魅力のとらえどころの無さみたいなものに直面したんです。経験を積んで、撮りたいと思うイメージを写真にすることは自分なりにある程度できるようになっても、桜だけはつかまえること自体が難しかった。花はみんな繊細できれいなものだけど、桜の花って小さくて、集合になって初めてわかるドットみたいなものでしょう? ただそのまま撮っても、僕らがあの花に見ている独特の柔らかさ、壊れやすさ、そういったものは写しとれない」
どうしたら「桜」をとらえることができるのか。フィルムを変え、被写体を求めて日本各地を巡り、試行錯誤を続けたという大森さん。
大森:「モノクロで撮ってみたり、撮り方をいろいろと変えてみたり。あと、何か自分の求めるものと近いものを感じたのかな、江戸時代以前の日本画や屏風絵といった古い桜の絵を見ましたね。写真のない時代の絵画は、時空間の切り取り方が今とは全然違う。新鮮でした」
迷いながらも撮り続け三、四年を過ぎたころ。ポジフィルムでの撮影を試しスライドで見た時に、最初のブレイクスルーがあったという。
大森:「今思えば、キーワードは“時間”だったんだと思います。桜を見ていると、桜の木だけはそのままで、周りの風景だけが千年の昔にタイムスリップするような、そんな感覚を覚える時があって。世界がどれだけ変わっても、桜だけが変わらずそこにあり、淡々と咲いては散るを繰り返している。その佇まいに、人は時間の流れを見て、人の生を重ね合わせたりするんじゃないかって」








