人と人とのつながりを、風景と分けて考えられなかった
同名写真集の発刊に合わせ、昨年10月末より資生堂ギャラリーで開かれた写真展『SMOKE LINE-風の河を辿って』。写真家・津田 直さんが、約3年の歳月をかけて中国、モンゴル、モロッコを旅し撮影した作品を展示したこの個展は、津田さんの作品に初めて触れる人はもとより、すでに彼のファンである人も、新鮮な驚きで迎えられた。なぜなら、それら作品には、津田さんがそれまで撮ることのなかった「人物」が初めて登場したからだ。
津田:「作品を撮るカメラで人物を写したのは確かに今回が初めて。人が風景に見えたんです。僕の風景論と人物が同等に思えたのですが、でも特にそこを強く意識して、敢えて撮ったということではないんです。あくまで自然、気がついたら撮っていました。だから自分では無意識だったのですが、旅から戻ってプリントした写真を編集しているとき、たまたま近くにいた、これまでの僕の作品を知る方に『これ、なんですか?!』ってびっくりしながら言われ、ああそういえば、と、ようやく気づいた(笑)」
「写真の強さというのは、シャッターを切る前にどれだけ対象と関係をつくれているかだと思うんです。シャッターを切る段階になって始めて関わりを持つのでは遅すぎる。それを考えると、今回の旅では“人と人とのつながり”と、風景を分かつことができなかったんです。自分が本当にたどり着けるところまで行ってみたい、そんな場所にある風景を撮りたいと思うと、どこへ行くにも誰かしら人の手を頼らなければ行けなかった。その時点で、僕の撮りたい風景には“人”が内包されていたのだと思います」
津田さんが追い求めた風景は、現地に住む人々でさえ行くのをためらうような、そこに立つこと自体がまず困難な場所ばかり。命の危険を感じることも、何度となくあったという。
津田:「目的地に行くまで7回も車がパンクしただとか、川にハマって3時間も動けなかったとか言うと、写真のイメージと違うとよく言われますね。もっとクールにさらっと撮っていると思われていて(笑)。すごい苦労をしている、って驚かれるのですが、僕としてはそのへんはあまり問題じゃないんです。大変か大変じゃないかで言えばもちろん大変ですが、『前に進む』って、そういうことだと思うから。それが障害と感じるかどうかかは自分次第なんじゃないかな」
しかしそういった旅の中で撮り収められた、津田さんの作品からは、決死の背景は感じられない。悠久の時を刻む自然が、凛とした透明感を湛えて、ただ淡々と眼前に横たわっているのみだ。
津田:「もちろん、僕がシャッターを押す以上、僕の体験が作品に影響することはあるでしょう。そうした体験や自分の中で積み上がっていくものの順番は、とても大事だと思います。でも、だからといって、世界のどこかをとりわけ特別だと思うことはない。僕がそこに行き着く過程とは関係なしに、その風景は何千年も前からそこにあって、そういった場所でも人はごくごく当たり前に生きているわけですし」
「世界にはそんな場所があるということを、伝えるのが僕の役目だと思っています。作品を見る人が、そこで何を見てもいいし、僕が何かをこうだと決めることはしたくないんです。それは小説で言えば翻訳という作業にすごく近い。自分は写真家である前に、世界を翻訳する、翻訳家なんだと思ってます」








